和製ユニコーン企業の病理? ファイナンシャルタイムズの記事紹介

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イギリスの経済誌「ファイナンシャル・タイムズ」で、日本のユニコーン企業(評価額が10億ドル以上で、設立から10年以内の未上場スタートアップ企業)の問題点について取り上げた記事が出ました。

Japan’s stock market is producing too many ‘punycorns’
The country urgently needs a vibrant business pipeline to replace the unicorn’s unambitious cousin

記事のタイトルは
“Japan’s stock market is producing too many ‘punycorns’”
です。

日本語にすると「日本の株式市場は”プニコーン(punycorn)”を量産しすぎている」となります。

punycornというのは “unicorn” と “puny” を合わせた造語です。
punyというのは「取るに足らない」とか「つまらない」といった意味なので、つまりpunycornとは「取るに足らないユニコーン企業」ということになります。

要するに、日本には取るに足らない、つまらないユニコーン企業が多すぎる、という主張の記事です。

日本のユニコーン企業のどういった点が批判されているのでしょうか?

記事の和訳

以下、記事の和訳です。


昨年、EcoNaviStaが東京の新しい成長市場に上場した際、AIを活用したビッグデータ睡眠分析ヘルスケア・スタートアップの株価は順調に上昇しました。しかし、その後株価は不安定になり、最終的には市場価値の60%を失うまで下落しました。

現在、この企業は「プニコーン」と呼ばれる、日本の興味深い産業種のひとつである大きくて弱々しい群れに属しています。

この生き物(ユニコーンの発展が阻害されたもの)の進化と増殖は、バブル時代から35年後の日本がリスク、野心、革新にどう取り組んでいるかをよく表しています。デフレ後の成長がますます厳しくなる中、プニコーンの存在とその生息環境は、現状よりさらに問題となるでしょう。

日本は、ユニコーン(時価総額10億ドル以上の未上場スタートアップ)と、それらが生み出され育成されるエコシステムの重要性を理解しています。これらは、より大胆なベンチャーキャピタル投資のラウンド、破壊的なイノベーションの需要、必要に応じた破壊と再発明、そして最も基本的にはビジネス規模に対する高い野心によって形成されます。

遅ればせながら、日本はユニコーン企業を生み出すパイプラインが十分ではなく、早急に改善が必要だと結論付けました。

2年前、強力な経団連のビジネスロビー団体は、2027年までに100匹のユニコーンを日本で育てることを政府に推奨しました。スタートアップの数は10万社に達するべきとされました。しかし、スタートアップに対する政府の財政支援が急増したにもかかわらず、最新のデータによるとスタートアップへの総投資額は2022年の9700億円(約63億ドル)から2023年には8030億円に減少し、2024年にはさらに減少し6500億円程度になる見込みです。日本のまだ小規模で未成熟なVC業界では、100社のユニコーン達成が現実的だと信じる人はほとんどいません。

ユニコーン不足の最も単純な説明は、シリコンバレーでは後期ラウンドの資金調達に向かうスタートアップに対する資金不足です。日本のスタートアップは本来なら時期尚早な段階でIPO(株式公開)に引き込まれ、商業的にも心理的にも準備ができていないことが多く、市場はそれに追いつけないことがよくあります。ある東京のVCファンドの代表は、会社の本当の旅はIPO後に始まるべきだが、日本ではしばしばIPOが旅の終わりになってしまうと言います。

この状態が「プニコーン」と呼ばれるものです。これは、上場が早すぎて市場が成長ストーリーとして評価しなくなり、上場により野心が抑えられ、評価額が数億ドル以上には上昇しないスタートアップです。そして多くの企業がこの状態に陥ります。TSE成長市場250指数の株価が2024年に上昇したのは約3分の1だけで、指数全体は1月以来14.5%下落しています。一方で日経225は同じ期間に同じ割合で上昇しています。

日本がプニコーンを生み出す傾向は、活発なVCエコシステムの欠如によるものですが、その他の状況によっても促進されています。日本の企業世界の多くの部分が長期間停滞していたため、スタートアップが一時的に革新的に見え、個人投資家がIPOに投資するに十分な時間を得られるのです。

経済が(今のところ)十分に大きいため、スタートアップは早期段階の成長の余地を見つけられ、創業者たちは億万長者ではなくても満足しています。アメリカのスタートアップと比べて、日本のスタートアップ創業者はそれほど野心的である必要がなく、非効率な部分を利用して成功できるのです。

多くのスタートアップ、特にeコマースやITサービス、デジタル化に関わる企業は、他国で成功したビジネスモデルを単に複製し、それを取り残された日本の企業や消費者市場に移植するだけで成功しています。世界的に競争力のある知的財産を生み出す必要はなく、旧時代の方法にデジタルを適用するだけで国内市場で顧客を見つけることができるのです。

日本は、プニコーンが安穏と生息できる牧草地が長くは持たないことをある程度認識しているでしょう。金利の上昇、人口減少などの要因によって、真のイノベーションと世界的な野心が求められる時が来るでしょう。プニコーンの「p」のように、静寂であるべきです。


要約

この記事では、日本のユニコーン企業を「プニコーン(取るに足らないユニコーン)」と揶揄し、その問題点を指摘しています。

日本のVC(ベンチャーキャピタル)市場が未成熟であったり、スタートアップが早期にIPO(株式公開)を迎えるという慣習により、スタートアップが十分に成長する前に上場してしまいます。
その結果、企業の成長が抑制されてしまうという点を問題としています。

ユニコーン企業を育てるためには、VCによる後期ラウンドの資金調達が重要です。
しかし日本ではその仕組みが不足しており、企業の成長が停滞する一因となっています。

また、創業者たちも、IPOを迎えることで満足してしまってその後の成長へのモチベが減退してしまうことや、米国のスタートアップのように積極的な成長を目指す必要がないことが多く、企業の野心も控えめになりがちです。

今後は、日本の企業がプニコーンにとどまらず、真のイノベーションと世界に通用する成長を遂げるために、VCエコシステムの整備や、IPOを急がずにしっかりとした基盤を築く必要があると指摘されています。

所感

日本ではアメリカに比べてAIなど最先端分野での企業が少なく、
経済の低迷や少子化による人口減少も踏まえて、国の将来をすごく悲観的に捉えてしまう世論が最近多いなという感覚はありました。

しかし、ここでイギリスの有名紙が日本のスタートアップ市場の問題点を取り上げたということもあり、やはり世界的にもこの問題は認知されていたんだなと改めて思い知らされた感があります。

記事でも触れられているように、IPOがゴールであるかのように錯覚してしまい、その後の野心がなくなってしまうというのは市場にとってはとても問題だと思います。
ですが同時に、とても日本人らしいなという印象も感じられます。

いわゆる「燃え尽き症候群」というものが日本人の間に蔓延していますが、この一種のような感じかもしれません。

大学受験に成功し、ゴールを達成したと感じて大学で何も学ばなくなってしまう、とか
働きたい企業に就職できたことで満足し、その後の働くモチベを維持できずに仕事でパフォーマンスを発揮できない、みたいな話は
よくあると思います。

これと同じような心理が、もしかするとスタートアップ界隈にもあるのかもしれないです。

やはり何事も、目標を立てる際には
「そもそもその目標は何のために達成するのか?」
「目的と目標をごちゃ混ぜにしてしまっていないか?」

を常に意識する必要があるのだなと感じます。

目的とは、「最終的に達成したい究極のゴール、到達点」であるのに対し、
目標とは、「目的を達成するために必要な、クリアすべき指標やステップ」のことを指します。

スタートアップ界隈で例えると、

目的が「事業を拡大させることで、人々の生活をより便利なものにする」みたいなことで、
IPOはその目的を達成するために必要な、目標の一つということになります。

IPOを目的と捉えてしまい、その先にある目的がフォーカスから外れてしまう、ということが往々にして起きてしまうのだと思います。

起業関連の話だとスケールが大きすぎてイメージしづらいこともあるかもしれませんが、
普段の仕事や趣味など、人生のあらゆることに対して、この「目的と目標を分けて考える」ということは常に意識したいと思いました(元記事の主題からはちょっとずれてしまいますが)。

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