ソニー・インタラクティブエンタテイメント(SIE)が、傘下のFirewalk Studiosを閉鎖したと報道されました。
Firewalk Studiosはゲームの開発を行うスタジオで、SIEによって数年前に買収されていました。
このスタジオは、今年コンコード(Concord)というゲームをリリースしたことでにわかに名前(悪名)が広まりました。
というのもこのコンコードというゲーム、
構想・開発に8年かけ、リリースから2週間でサービス終了するという
圧倒的に不名誉な記録を残してしまったゲームだからです。
ジャンルとしては、最近流行りのFPSのヒーローシューター。
Apexやオーバーウォッチシリーズなど、多くのFPSヒーローシューターゲームが世界中で人気を博していることもあり、中々にコケにくそうなジャンルだと思うのですが、
8年というリリースまでの長い歳月むなしく、2週間でサービスクローズとなってしまいました。
何とこのゲーム、8月24日のリリース後、最大同時接続数が700人弱と、ありえないレベルの大爆死を遂げてしまいます。
オープンベータの時点でも最大同接数は2000人ちょっとと、よからぬ空気感が漂っていましたが
いざリリースされると、それを遥かに下回る結果になってしまいました。
こうしてゲーム史に残るレベルの記録的大失敗を経て、コンコードはリリースから2週間でサービスを終了しました。
こうして一旦はサービスを終了したのですが、その時は一旦仕切り直し、ゲームにテコ入れを加えるという趣旨の報道もされていました。
そのため、良くも悪くも内容を変えた形でいつか再リリースされるのだろうと考えていた人も世界に多くいたと思います。
ところが今週になって突然、SIEがコンコードの開発元であるFirewalk Studiosそのものの閉鎖を決定したと報じられました。
サービス終了から復活することはないと考えている人もかなり多かったと思いますが、
スタジオの閉鎖まで行うことは大部分の消費者の予想を超えていたのではないかと思います。
これでコンコードは完全に、世から葬り去られました。
大爆死の原因
コンコードが歴史的大失敗を喫してしまった原因は、いくつか明らかなものがあります。
一つは、その値段設定です。
このゲームは日本円の希望小売価格が4,480円となっていました。またアメリカドルでは$39.99でした。
この価格を高いと思うか低いと思うかはさておき、有料な時点で売り上げの見込みとしては厳しかったのではないかと言われています。
冒頭でも触れたように、FPSヒーローシューターのゲームにはApexやオーバーウォッチ、Valorantなど、世界中で大人気の作品が名を連ねています。
そして重要なことは、それらのほとんどが基本的に無料で遊べるということです。
スキンや装備などの課金要素は多少あるにしても、基本プレイはPCのスペックさえ合えば無料でできるものばかりです。
そのような超レッドオーシャンな市場に、名前も全く売れていない新サービスが、わざわざ基本プレイ有料の形式で参入したところでゲーマーはまったく寄りつかないでしょう。
ゲームを普段から遊んでいる消費者は、こういった市場のパワーバランスをある程度理解している人も多いのですが、
こういった人たちにとってはコンコードの失敗はそのリリース前から明らかだったことだと思います。
そしてもう一つの原因は、過剰なDEI/ポリコレへの配慮です。
DEIというのはDiversity(多様性)、Equity(公正性)、Inclusion(包括性)の頭文字をとった言葉で、
人種や性的指向などの個々の違いを容認し、どのような属性を持つ人であっても過ごしやすい世界を目指すという意思を表す言葉です。
その意味をそのまま取るとすごく素敵な言葉に聞こえますが
一部の過激なDEI推進派が、ここ最近世界中で物議を醸しています。
多様性を主張しているにも関わらず一部の属性の人々を排斥しようとしたり、
社会が自らの要望に完全に合わせて変容するのを求め、それが叶わないとみるや自己の正当性ばかりを主張して暴徒化したりなど
一部で不穏な動きが目立ってきています。
そしてコンコードも、DEI/ポリコレへの過剰な傾倒が消費者の感情を逆撫でしています。
登場するキャラクターの容姿が、俗に言う「かっこいい」「かわいい」「魅力的」な見た目を意識的に避け、DEIの名の下に、あえて特異なデザインにしている、と方々から大批判されています。
いうまでもなく多様性はとても大事なことですが、あくまでそれは現実世界での話です。
ゲーマーは皆、かっこいい、かわいい、魅力的なキャラクターをゲームでプレイしたがっています。
そんな彼らのニーズを無視し、ゲームというファンタジーの中で多様性という言葉を盾に
あえて魅力のないキャラクターばかりを押し付けても、消費者であるゲーマーは喜ぶはずもないでしょう。
このキャラクターデザインに対する批判は、価格の問題よりもはるかに大きな論争の的になっており、
キャラクターデザインを担当したデザイナーが炎上するといった事態にまで発展しています。
そもそもゲーマーはファンタジーの世界を欲しており、現実世界の特定のイデオロギーをゲームの中で持ち出されても、反感しか覚えないということだと思います。
そしてゲームはそんなゲーマー(消費者)たちのためにこそあるべきものであり、イデオロギーを押し付ける道具ではない、という教訓がここから学べるような気がします。
コンコードが遺したもの
大失敗に終わったコンコードですが、
SIEにとっては不名誉ながら、ゲーム界隈では新たに「コンコード」という単位がミームとして広まっています。
コンコードの最大同時接続数を「1コンコード」として、他のゲームの最大同接数を何コンコードかで表すという中々に皮肉の効いた単位です。
例えば、10月18日に発売され、大失敗を喫している「Unknown 9: Awakening」というゲームは0.4コンコード。
大人気タイトルの「ELDEN RING」はなんと1086コンコードほどです。
そしてコンコードのパッケージ版ですが、
あまりにも売れなかったためにプレミア価値が付き、高値で取引される事態になっています。
私がメルカリで確認した限りでは、2万円弱ほどの値段で売りに出されているものが多く見つかりました。
とはいえこんな形で高値がついても、SIEは嬉しくはないでしょうね。
「DEIの過剰な押し付けは、ゲーム業界ではワークしない」という前例を作ったのも、ゲーム業界にとっては大きな出来事だったのではないかと思います。
DEIは現実世界で推進するべきもので、ファンタジーであるゲーム内世界に持ち込んでも消費者は反感を覚えるだけ、というある種教訓のようなものは、今後ゲーム業界の中で語りぐさになっていくかもしれません。
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